2026年、日本の金融システムは大きな転換点を迎えようとしている。3メガバンク共同ステーブルコイン構想、金商法への規制移行、そして量子コンピューター時代の到来。これらの要素が絡み合う中で、銀行の役割そのものが問い直されている。## なぜ今、3メガバンクがステーブルコインに走るのか昨年11月に発表された3メガバンク共同ステーブルコイン構想は、日本の金融界にとって象徴的な決断だ。背景にあるのは、グローバル市場における日本の危機感である。米ドル建てステーブルコインの時価総額は既に約40兆円に達し、ビットコイン取引の必需品と化している。ソブリン(政府系ファンド)を含む機関投資家たちが日常的に使用する金融インフラへと進化した。一方、日本ではステーブルコインの発行が遅れ、多くの企業や個人が外国発行のステーブルコインに依存する状況が続いている。SMBCグループ傘下の金融戦略部門が強調するのは、「通貨発行権の喪失リスク」である。日本発のステーブルコインがなければ、金融主権の一部が実質的に失われる可能性があるという認識が共有されている。## 共同構想の実態──PoCから実装へ3メガバンクの構想では、まず三菱商事などの企業を対象とした実証実験を展開する。キャッシュマネジメントシステム(CMS)がユースケースの代表例だ。グローバル展開する大企業は、世界各地に眠る資金を一括管理することで、24時間365日の効率的な運用を実現したいという需要を抱えている。従来は営業時間(カットオフタイム)の制限により、夜間に運用不可の資金が発生する。ステーブルコインなら、この制約から解放される。実装のタイムラインはまだ明確ではないが、2024年の国内法整備と2025年の米国GENIUS法成立が追い風となった。金融庁も米国の動きに危機感を持ち、業界の調整に音頭を取っている。## 既存システムとの接続が勝負ポイント3メガバンク共同ステーバルコインが既存のJPYCと異なる点は、日本の金融インフラとの統合にある。全銀ネットや日銀ネットとの直接接続が実現すれば、スケーラビリティは飛躍的に向上する。JPYCは現状100万円の発行上限が設定されており、小口決済に特化している。一方、3メガバンク構想はホールセール(企業間取引)を主眼に、既存の決済システムとの融合を目指している。両者は補完関係にあり、「ことら送金」のように共存することも想定されている。ただし、個人向けウォレット提供は現段階では構想に含まれていない。インターオペラビリティ(相互運用性)の確保は重視されるが、ビジネスモデルとしての優先順位は異なっている。## 金商法移行が開く暗号資産業務の地平2025年に予定される金商法への規制移行により、銀行子会社は暗号資産の発行・売買・仲介業務が解禁される。これは日本の金融規制史において極めて重要なマイルストーンである。当面、具体的なビジネス展開は模索段階にあるが、暗号資産ETFの組成と提供は避けられない選択肢として認識されている。また仲介やカストディアルサービスについても、グループ全体で検討が進められている。課題として浮上しているのは、ユーザー保護、ボラティリティ対応、システム インフラの整備である。セルフカストディウォレット管理という自己責任の原則が、日本の金融慣行とどう調和するかが問題だ。海外モデルを無批判に輸入するのではなく、日本の顧客層に最適なサービス設計が求められている。Oliveへの暗号資産メニュー追加も検討対象だが、タイミングと実装方法の議論が継続中である。## トークン化・オンチェーン化が銀行の本質を変える資産のトークン化とオンチェーン化は、決済、資産管理、市場・証券取引の三つの領域で銀行業務を根本から組み替える力を持っている。決済が低コスト・即時・高頻度・クロスボーダー化されれば、取扱量は現在の想像を超える規模に膨れ上がる。24時間365日、DvP決済(資産移転と資金決済の同時実行)が常態化すると、処理量は従来のシステムでは対応不可能なレベルに達する。ここで注目されるのが**量子コンピューター**の役割である。金融は量子コンピューターの最初のキラーユースケースになると考えられている。電力とコンピューティング能力の飛躍的向上が、オンチェーン金融の本格化を可能にするのだ。RWA(現実資産)のトークン化が進めば、投資対象が横方向に拡大し、インターバンク市場も高速化・効率化する。銀行の仕事は大きく変わり、単なる仲介者から戦略的な技術企業へのシフトが不可避となる。ただし変化のタイムスパンは複数の技術革新に依存する。ブロックチェーン単体ではなく、通信ネットワークの進化(光通信など)、AIの発展、その他インフラの整備が並行して進む必要がある。## 2026年のキーワード──「プログラマビリティ」と「ネガティブケイパビリティ」金融の未来を考えるうえで、二つのキーワードが浮上している。第一は「プログラマビリティ」。ブロックチェーン本来のメリットが、生成AIと量子コンピューター時代に急速に現実味を帯びつつある。AIエージェントが人間に代わって資産を運用する世界は、すでに技術的には可能な段階にある。第二は「ネガティブケイパビリティ」──すなわち不確実性の高い環境で性急に結論を求めず、考え続ける能力である。AIが普及し、差別化が難しくなる時代こそ、人間の創造性と先見性が重要になる。銀行が顧客に選ばれるための条件は、「AI-Ready」なサービス設計と、3年5年先の未来を見通す人的資本との両輪である。いかなる技術革新が起ころうとも「揺れながら考え続ける」という営為が、金融機関の存在意義を規定するようになるだろう。## 銀行像の転換──10年後の姿10年前、銀行の店頭は伝票とハンコの世界だった。現在、スターバックスと融合した店舗が登場し、Oliveのようなデジタルファーストなプラットフォームが主流化している。10年後はどうか。AIが取引を代行し、スマートフォンも現在の形を失い、自然言語でAIエージェントに依頼すれば全てが完結する世界が来ているはずだ。この時、銀行が生き残るには、新たな役割の定義が必須である。AIやクラウドインフラの外部依存も増すが、セキュリティとデータ主権の管理は妥協不可能な課題だ。オンプレミス環境とクラウド環境を適切に組み合わせ、MCP(Model Context Protocol)のような新しい技術を活用することで、データ主権を守りながら最新技術の恩恵を受ける道が開かれている。日本のステーバルコイン戦略、金商法下での暗号資産業務、量子コンピューター時代への備え──これらは単なるテクノロジー導入ではなく、金融そのものの再定義である。2026年はその転換が加速する年になるだろう。
日本ステーブルコイン戦略、2026年に金融の地図が塗り替わる──三井住友銀行が描く未来像
2026年、日本の金融システムは大きな転換点を迎えようとしている。3メガバンク共同ステーブルコイン構想、金商法への規制移行、そして量子コンピューター時代の到来。これらの要素が絡み合う中で、銀行の役割そのものが問い直されている。
なぜ今、3メガバンクがステーブルコインに走るのか
昨年11月に発表された3メガバンク共同ステーブルコイン構想は、日本の金融界にとって象徴的な決断だ。背景にあるのは、グローバル市場における日本の危機感である。
米ドル建てステーブルコインの時価総額は既に約40兆円に達し、ビットコイン取引の必需品と化している。ソブリン(政府系ファンド)を含む機関投資家たちが日常的に使用する金融インフラへと進化した。一方、日本ではステーブルコインの発行が遅れ、多くの企業や個人が外国発行のステーブルコインに依存する状況が続いている。
SMBCグループ傘下の金融戦略部門が強調するのは、「通貨発行権の喪失リスク」である。日本発のステーブルコインがなければ、金融主権の一部が実質的に失われる可能性があるという認識が共有されている。
共同構想の実態──PoCから実装へ
3メガバンクの構想では、まず三菱商事などの企業を対象とした実証実験を展開する。キャッシュマネジメントシステム(CMS)がユースケースの代表例だ。
グローバル展開する大企業は、世界各地に眠る資金を一括管理することで、24時間365日の効率的な運用を実現したいという需要を抱えている。従来は営業時間(カットオフタイム)の制限により、夜間に運用不可の資金が発生する。ステーブルコインなら、この制約から解放される。
実装のタイムラインはまだ明確ではないが、2024年の国内法整備と2025年の米国GENIUS法成立が追い風となった。金融庁も米国の動きに危機感を持ち、業界の調整に音頭を取っている。
既存システムとの接続が勝負ポイント
3メガバンク共同ステーバルコインが既存のJPYCと異なる点は、日本の金融インフラとの統合にある。全銀ネットや日銀ネットとの直接接続が実現すれば、スケーラビリティは飛躍的に向上する。
JPYCは現状100万円の発行上限が設定されており、小口決済に特化している。一方、3メガバンク構想はホールセール(企業間取引)を主眼に、既存の決済システムとの融合を目指している。両者は補完関係にあり、「ことら送金」のように共存することも想定されている。
ただし、個人向けウォレット提供は現段階では構想に含まれていない。インターオペラビリティ(相互運用性)の確保は重視されるが、ビジネスモデルとしての優先順位は異なっている。
金商法移行が開く暗号資産業務の地平
2025年に予定される金商法への規制移行により、銀行子会社は暗号資産の発行・売買・仲介業務が解禁される。これは日本の金融規制史において極めて重要なマイルストーンである。
当面、具体的なビジネス展開は模索段階にあるが、暗号資産ETFの組成と提供は避けられない選択肢として認識されている。また仲介やカストディアルサービスについても、グループ全体で検討が進められている。
課題として浮上しているのは、ユーザー保護、ボラティリティ対応、システム インフラの整備である。セルフカストディウォレット管理という自己責任の原則が、日本の金融慣行とどう調和するかが問題だ。海外モデルを無批判に輸入するのではなく、日本の顧客層に最適なサービス設計が求められている。
Oliveへの暗号資産メニュー追加も検討対象だが、タイミングと実装方法の議論が継続中である。
トークン化・オンチェーン化が銀行の本質を変える
資産のトークン化とオンチェーン化は、決済、資産管理、市場・証券取引の三つの領域で銀行業務を根本から組み替える力を持っている。
決済が低コスト・即時・高頻度・クロスボーダー化されれば、取扱量は現在の想像を超える規模に膨れ上がる。24時間365日、DvP決済(資産移転と資金決済の同時実行)が常態化すると、処理量は従来のシステムでは対応不可能なレベルに達する。
ここで注目されるのが量子コンピューターの役割である。金融は量子コンピューターの最初のキラーユースケースになると考えられている。電力とコンピューティング能力の飛躍的向上が、オンチェーン金融の本格化を可能にするのだ。
RWA(現実資産)のトークン化が進めば、投資対象が横方向に拡大し、インターバンク市場も高速化・効率化する。銀行の仕事は大きく変わり、単なる仲介者から戦略的な技術企業へのシフトが不可避となる。
ただし変化のタイムスパンは複数の技術革新に依存する。ブロックチェーン単体ではなく、通信ネットワークの進化(光通信など)、AIの発展、その他インフラの整備が並行して進む必要がある。
2026年のキーワード──「プログラマビリティ」と「ネガティブケイパビリティ」
金融の未来を考えるうえで、二つのキーワードが浮上している。
第一は「プログラマビリティ」。ブロックチェーン本来のメリットが、生成AIと量子コンピューター時代に急速に現実味を帯びつつある。AIエージェントが人間に代わって資産を運用する世界は、すでに技術的には可能な段階にある。
第二は「ネガティブケイパビリティ」──すなわち不確実性の高い環境で性急に結論を求めず、考え続ける能力である。AIが普及し、差別化が難しくなる時代こそ、人間の創造性と先見性が重要になる。
銀行が顧客に選ばれるための条件は、「AI-Ready」なサービス設計と、3年5年先の未来を見通す人的資本との両輪である。いかなる技術革新が起ころうとも「揺れながら考え続ける」という営為が、金融機関の存在意義を規定するようになるだろう。
銀行像の転換──10年後の姿
10年前、銀行の店頭は伝票とハンコの世界だった。現在、スターバックスと融合した店舗が登場し、Oliveのようなデジタルファーストなプラットフォームが主流化している。
10年後はどうか。AIが取引を代行し、スマートフォンも現在の形を失い、自然言語でAIエージェントに依頼すれば全てが完結する世界が来ているはずだ。この時、銀行が生き残るには、新たな役割の定義が必須である。
AIやクラウドインフラの外部依存も増すが、セキュリティとデータ主権の管理は妥協不可能な課題だ。オンプレミス環境とクラウド環境を適切に組み合わせ、MCP(Model Context Protocol)のような新しい技術を活用することで、データ主権を守りながら最新技術の恩恵を受ける道が開かれている。
日本のステーバルコイン戦略、金商法下での暗号資産業務、量子コンピューター時代への備え──これらは単なるテクノロジー導入ではなく、金融そのものの再定義である。2026年はその転換が加速する年になるだろう。